若手落語家を今から聴く面白さ|これから変わっていく芸を追いかける
更新日:9月24日

公開日:2026年9月20日
文=シブチカ落語研究所
落語を聴き始めると、まず名前を知っている真打や、長く活躍している人気落語家を聴いてみたくなるかもしれません。
完成度の高い高座を聴く楽しさがある一方で、まだ二ツ目として経験を重ねている若手落語家には、今だからこそ見られる面白さがあります。
数年前には演じていなかった噺に挑戦したり、自分に合う演じ方を探したり、独演会を始めたり、落語の外へ活動を広げたりする。その人の芸も活動も、まだ大きく動いている途中です。
若手落語家を聴くことは、これから何が生まれるか分からない時間を一緒に追いかけることでもあります。
同じ落語家でも、数年後には高座が変わっている
落語は、一つの噺を覚えたら完成する芸ではありません。
同じ演目でも、何度も高座にかけるうちに言葉の置き方が変わり、人物の見せ方が変わり、笑いが起こる場所まで変化していきます。年齢や経験を重ねたことで、それまでとは違う人物に共感できるようになることもあるでしょう。
若手の時期には、その変化が特に見えやすくなります。
初めて聴いたときには勢いが印象的だった人が、数年後にはゆったりと人物を描くようになっているかもしれません。以前は短い滑稽噺を多く演じていた人が、長い人情噺や怪談に取り組んでいることもあります。
好きな演目を何人もの落語家で聴き比べる楽しさとは別に、一人の落語家が同じ芸と何年も付き合いながら変わっていく様子を見るのも、落語ならではの楽しみです。
小さな会で聴いた若手が、数年後には大きな舞台にいることもある
若手落語家は寄席にも出演しますが、自分たちの勉強会や独演会、二ツ目だけの落語会などでも経験を重ねています。
現在では全国各地で大きなホールで独演会を開き、テレビやラジオでも活躍する人気落語家・春風亭一之輔さんは、入門から10年も経たない時期に、東京都内で毎月「真一文字の会」という勉強会を開いていました。
今の姿だけを見ていると、最初から大きな舞台に立っていたように感じるかもしれません。でも、その途中には、小さな会場へ通っていたお客さんだけが見ていた時期があります。
今、数十人から100人ほどの会場で聴いている一席が、その落語家を何年も追いかける最初の一席になることもあります。
仲間と並べて聴くから、それぞれの違いが見えてくる
若手を追う面白さは、同世代をまとめて聴くことにもあります。
2013年、当時二ツ目だった落語芸術協会のメンバー11人によって始まった自主興行「成金」では、毎週金曜日にメンバーが交代で出演。同じ世代の若手を継続して見られる会になっていました。「成金」は、2019年に定例公演を終了しましたが、そのメンバーたちは現在、それぞれ真打や講談界の中心的な演者として活動しています。
メンバーには、現在『笑点』でも知られる桂宮治さん、柳亭小痴楽さん、講談師の神田伯山さんをはじめ、瀧川鯉八さん、春風亭昇々さん、笑福亭羽光さんなど、今ではそれぞれ違う方向で活動する演者が揃っていました。
同じ若手でも、声も、テンポも、選ぶ噺も、客席への向き合い方も違います。
だからこそ、今の若手落語家を聴く面白さがあります。今は小さな会場で聴いている落語家が、数年後には大きな舞台に立っているかもしれませんし、思いもよらない分野で活動を広げているかもしれません。
現在活躍している元・成金メンバーを若手のころから応援できたように、これから活躍の場を広げていく落語家を、今のうちから追いかけることができます。
若手の高座を聴くことは、完成した未来を予想することではなく、その人がどんな落語家になっていくのかを、これから一緒に見ていけるということでもあります。
ネタおろしを追うと、持ちネタが増えていく過程も見える
落語家が新しい演目を覚え、初めて客前で演じることを「ネタおろし」と呼びます。
若手の落語会を探していると、このネタおろしを目的にした会も見つかります。初めて演じた一席が、その後の高座で少しずつ変化し、いつかその人を代表する噺になっていくこともあります。
同じ演目を半年後、一年後にもう一度聴いたとき、人物の見せ方やテンポが変わっているかもしれません。
若手を追う楽しさは、その人自身の成長だけではなく、持ちネタが一席ずつ増え、その中からその人らしい噺が育っていく過程を見られることにもあります。
高座の外へ、活動が広がっていく人もいる
今の若手落語家を見ていると、活動する場所もさまざまです。
自主公演を立ち上げる人、新作落語を書く人、YouTubeやラジオで発信する人、アニメや朗読など別のジャンルへ参加する人もいます。二ツ目同士でユニットを組み、新しい落語会を作る動きもあります。
落語芸術協会では、二ツ目落語家によるユニット「ルート9」が公演を続けるなど、若手自身が新しい場を作る活動も見られます。
落語協会の二ツ目12人による「ニッパチ!」では、毎朝の生配信と実際の落語会を組み合わせた活動も行われてきました。高座だけでなく、普段の人柄や若手同士の関係を知ってから会場へ行くという楽しみ方も生まれています。
誰がどんな方向へ進むのかは、最初から決まっていません。古典を深く磨く人もいれば、新作を作る人、落語とは違う分野へ接点を広げる人もいます。
「この人は次に何を始めるんだろう」と思いながら見られることも、若手を今から聴く面白さです。
同世代のつながりから、次に聴きたい人も増えていく
若手の落語会では、同じくらいの世代や香盤の落語家が一緒に出演することも多くあります。
一人を目当てに行った会で、もう一人面白い落語家を見つける。その人が今度は別の若手と二人会を開き、そこからまた気になる人が増えていく。そんなふうに、最初は一人しか知らなかったところから、少しずつ落語界の人間関係まで見えるようになります。
師匠が違えば教わってきた芸も違い、古典を中心にする人もいれば、新作を作る人もいます。同じ時期に二ツ目として活動していても、それぞれが違う方向へ進んでいるところも面白いところです。
「有名になる前から知っていた」だけではない
若手を応援するというと、「将来有名になりそうな人を早く見つける」という楽しみを想像するかもしれません。
でも、その人が真打に昇進したり、賞を取ったり、大きな舞台へ進んだときに面白いのは、「昔から知っていた」と言えることだけではありません。
どんな噺を覚えてきたのか、以前はどんな高座だったのか、どんな挑戦をしてきたのか。その時間を知っているからこそ、数年後の一席にも積み重なりが見えてきます。
若手落語家を追うことは、未来の結果を当てることではなく、その人の時間ごと楽しむことです。
シブチカでは、今まさに変わっている若手を聴ける
シブチカ落語鑑賞教室では、現在二ツ目として活動する若手落語家がレギュラー出演しています。
「若手」といってもその現在地は様々ですが、シブチカ落語鑑賞教室はプロの落語家の中でも実力に定評のあるメンバーが揃っています。
複数の若手コンクールで結果を残す、春風亭朝枝さん
春風亭朝枝さんは2023年の「さがみはら若手落語家選手権」をはじめ、浅草演芸ホール「あしたこそ」、天下一落語会、プリモ芸術コンクール落語部門など、複数の若手コンクールで優勝を重ねています。
寄席や独演会にも出演を重ねながら二ツ目として活動している今、その高座がこれからどう変化していくのかを追うことができます。
落語をもっと身近にする、春風亭与いちさん
春風亭一之輔さんに入門し2021年に二ツ目へ昇進した春風亭与いちさんは、全国で高座に上がる一方、YouTubeでの企画、冠ラジオ、ファッション誌『GINZA』への掲載、ワインバーでの独演会、子どもへの絵本の読み聞かせなど、落語との出会い方そのものを広げる活動も行っています。
寄席だけではなく、日常のさまざまな場所へ落語を持っていく。これから落語を知る人との接点をどう増やしていくのかにも注目したい若手です。
古典と創作、さらにその外へ広がる三遊亭ごはんつぶさん
三遊亭ごはんつぶさんは、伝統的な古典落語に加えて自ら落語台本を制作し、2024年度の全国若手落語家選手権で大賞を受賞。
2026年にはTVアニメ『あかね噺』にも、落語稽古指導・実演協力や声の出演という形で参加しています。
落語会だけでなく配信や落語台本の書き方教室も行い、古典・新作両方の落語をどう発展させていくのかを現在進行形で見ることができます。
落語の外にも表現を広げる、吉原あさひさん
吉原あさひさんは、沖縄出身の女性落語家です。落語家になる前には俳優やラジオパーソナリティとして活動しており、現在も落語だけにとどまらない表現を続けています。
これまでには、落語を題材にした楽曲で構成するミニアルバム『品川心中』をリリースしたほか、自身の独演会や自主企画も開催。講談師や漫才師など、異なるジャンルの演者と組む会も行ってきました。
高座を重ねながら、音楽やほかの演芸とも接点を持ってきた落語家の一人です。これから落語そのものの芸と、これまで培ってきた表現の幅がどのようにつながっていくのかにも注目できます。
自分の新作をつくる鈴々舎美馬さん
鈴々舎美馬さんは2023年に二ツ目へ昇進した女性落語家です。2024年度のNHK新人落語大賞では、初エントリーで本選に進出しました。
古典を演じる一方で、新作落語にも積極的に取り組んでいます。自身の会社員経験をもとにした新作落語では、働く女性の気持ちや本音を題材にしており、BSよしもとの「若手創作落語の会」でも高座が紹介されています。
女性の落語家が増えてきた現在、その経験や感覚を新作へどう取り込みながら、自分ならではの芸を作っていくのか。若手の今だからこそ、その過程も含めて見ることができます。
古典の世界をじっくり聴かせる、三遊亭萬都さん
三遊亭萬都さんは2024年に二ツ目へ昇進。六代目三遊亭圓窓さんにつながる一門では25年ぶりの二ツ目として活動を始めました。
落ち着いた雰囲気の中で古典落語の人物や世界をじっくり見せる高座が魅力です。新作のネタおろしや怪談の長講などにも取り組み、演じる噺の幅を広げています。
2026年刊行の、これからの若手演芸家を紹介する書籍『未来の大看板がここにいる』にも、東京の若手落語家で注目すべき一人として掲載されています。
得意とする古典を深めながら、この先どんな噺が萬都さんの一席として育っていくのかを聴いていきたい落語家です。
アナウンサー経験から、落語と朗読へ広がる入船亭扇七さん
入船亭扇七さんは、落語家になる前にNHKのアナウンサーとして、ニュースやラジオ、スポーツ実況などを経験した異色の経歴を持っています。2018年に入船亭扇遊さんへ入門し、2024年に二ツ目へ昇進しました。
現在は落語の独演会だけでなく、文学作品の朗読にも活動を広げています。2026年には俳優と組んで江戸川乱歩や芥川龍之介などを読む「渋谷ひとり朗読」にも出演しています。
ニュースを伝える言葉から、落語の言葉、さらに文学を読む言葉へ。もともと声と言葉を仕事にしてきた経験が、これから落語家としてどんな芸につながっていくのかも面白いところです。
二ツ目になったばかりの柳家しろ八さん
柳家しろ八さんは、会社員を経て柳家小八さんへ入門し、2026年5月に二ツ目へ昇進したばかりです。
八人の中でも、二ツ目としての時間はまだ始まったばかりです。これから持ちネタが増え、高座の形ができ、その中から「しろ八さんらしさ」がどう見えてくるのか。その最初の時期から聴けること自体が、若手を追う面白さをよく表しています。
今聴いた一席が、数年後には「最初の一席」になるかもしれない
シブチカで初めて聴いた落語家を、数年後に別の会場でまた聴くことがあるかもしれません。
そのころには真打へ近づいている人もいれば、新しい賞を取っている人、独演会の規模が大きくなっている人、今は想像していない活動を始めている人もいるでしょう。
でも、最初に聴いた日の高座は、そのときにしかありません。
若手落語家を今から聴く面白さは、「いつかすごくなるかもしれない人」を探すことではなく、今しかない一席を聴きながら、その先の変化まで楽しみにできることです。
シブチカ落語鑑賞教室では、落語の見方解説とあわせて、こうした個性の異なる若手落語家の高座を楽しめます。
まずは一人、「またこの人を聴いてみたい」と思う人を見つけてみてください。その人を次に聴いたとき、前とは少し違って見えたら、若手落語家を追いかける楽しさが始まっています。
シブチカ落語鑑賞教室についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
東京で初めて落語を見るなら|渋谷「シブチカ落語鑑賞教室」の魅力
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参考資料
一般社団法人落語協会「落語協会の活動」
春風亭朝枝 公式ウェブサイト
春風亭与いち 公式サイト
三遊亭ごはんつぶ Official Website
吉原あさひ 公式サイト
鈴々舎美馬 公式ウェブサイト
三遊亭萬都 公式サイト
入船亭扇七 公式ウェブサイト
柳家しろ八 公式サイト
宮信明『未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い』四六社、2026年









