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落語の「出囃子」とは?寄席囃子・下座・ハメモノとの違いを解説

シブチカ落語研究所
8月19日
読了時間: 12分

更新日:8月25日

出囃子が鳴れば、芸人の姿もめくりの名前も見えないうちから、次に誰が登場するのか分かることがあります。舞台袖から届く音は、落語家が高座へ上がる前から、客席を次の一席へ導いています。
出囃子が鳴れば、芸人の姿もめくりの名前も見えないうちから、次に誰が登場するのか分かることがあります。舞台袖から届く音は、落語家が高座へ上がる前から、客席を次の一席へ導いています。

公開日:2026年8月16日

文=シブチカ落語研究所


寄席で前の高座が終わり、次の演者へ交代する。


すると、舞台袖から三味線や太鼓の音が聞こえてきます。この、芸人が高座へ上がるときに演奏される音楽が「出囃子」です。


出囃子を知っているお客さんなら、芸人の姿がまだ見えず、高座脇の「めくり」に書かれた名前も確認できないうちから、曲が始まった時点で次に誰が出てくるのか分かります。


落語家が一言も話していないどころか、まだ舞台袖から姿を現していない。それでも、出囃子によって次の高座が始まろうとしていることが客席へ伝わります。


ただ、寄席の音について調べると、「寄席囃子」「お囃子さん」「下座」「地囃子」「ハメモノ」「鳴り物」など、似たような言葉がいくつも出てきます。


出囃子は、寄席で使われる音楽全体の名前ではありません。寄席囃子という大きな枠の中に、出囃子や地囃子、落語本編に入るハメモノなどがあります。


この記事では、出囃子とは何なのか、誰が演奏しているのか、落語家ごとに曲が決まっている理由、寄席囃子・下座・地囃子・ハメモノ・鳴り物との違いまで紹介します。


落語の「出囃子」とは?

出囃子とは、落語家や芸人が高座へ登場するときに演奏される音楽です。


東京の定席では、舞台袖の御簾の内側で、お囃子さんが出演者の出入りに合わせて生演奏しています。(国立公文書館)


出囃子は、単に場内をにぎやかにするためのBGMではありません。


前の高座が終わった空気を切り替え、これから登場する芸人を客席へ迎え入れる。演者が舞台袖から高座へ向かい、座布団へ座るまでの時間をつくり、次の一席への期待を高めます。


曲のテンポが軽快なら、登場する姿も明るく見えるかもしれません。落ち着いた曲なら、客席の空気も静かに整っていきます。


芸人が姿を現す前から、出囃子によって次の高座への切り替えは始まっています。


「めくり」が見えなくても、次の芸人が分かる

寄席の高座脇には、出演中の芸人の名前を示す「めくり」が置かれることがあります。


しかし、何度も同じ落語家を聞いているお客さんは、めくりを確認する前に、出囃子で次の出演者に気づくことがあります。


これは、その出囃子と落語家が、客席の中ですでに結びついているためです。


東京では二ツ目になると自分の出囃子を持つことができ、寄席ではお囃子さんが落語家ごとの曲を弾き分けています。(国立公文書館)


出囃子は、芸人の姿より先に、その人の登場を知らせることがあるのです。


「寄席囃子」は、出囃子を含む大きな呼び名

出囃子と寄席囃子は、同じ意味ではありません。


寄席囃子とは、寄席で使われる音楽を広く指す言葉です。


日本芸術文化振興会は、三味線に鉦や太鼓などが加わる寄席の音楽を寄席囃子とし、その中に、芸人の登場時に演奏する出囃子や、曲芸・奇術・紙切りなどの伴奏となる地囃子があると説明しています。(NTJ)


つまり、関係を整理すると、寄席囃子という大きな音楽文化の中に、出囃子、地囃子、落語本編に入る音など、役割の異なる演奏があります。


前の記事で紹介した一番太鼓、二番太鼓、仲入り太鼓、追い出し太鼓も、寄席の時間を音でつくる大切な存在です。


ただし、出囃子が個々の芸人の登場に合わせる音楽なのに対し、寄席太鼓は、開場、開演、休憩、終演という興行全体の節目を知らせます。


出囃子は「次に誰が登場するか」を伝え、寄席太鼓は「公演全体が今どこまで進んだか」を伝える音です。


東京では、二ツ目になると自分の出囃子を持つ

東京の落語界には、前座、二ツ目、真打という階級があります。


日本芸術文化振興会によると、落語家は二ツ目へ昇進すると、紋付や羽織を着られるようになるとともに、自分の出囃子を持つことができます。(国立公文書館)


その落語家が高座へ上がるたびに同じ曲が演奏されるため、曲と落語家の姿が少しずつ客席の記憶の中で結びついていきます。


曲が決まる経緯は、すべての落語家で同じとは限りません。師匠やお囃子さんと相談したり、名前、出身地、芸風、曲の雰囲気などを考えたりしながら選ばれることがあります。


一度その落語家の姿と曲が結びつくと、出囃子は単なる登場曲ではなく、その人の高座を思い起こさせる音になります。


何度も聞くうちに、出囃子も落語家の名前や顔、芸風と一緒に記憶されていきます。


出囃子を演奏する「お囃子さん」

東京の定席で三味線を演奏しているのが、寄席囃子の専門家である「お囃子さん」です。「お師匠さん」などとも呼ばれます。


客席から姿が見えないことも多く、舞台袖の御簾の内側で、出演者の出入りや芸の進行に合わせて演奏しています。


日本芸術文化振興会によると、お囃子さんは落語家それぞれの出囃子を弾き分けるだけでなく、曲芸、奇術、紙切りなどの伴奏も担当します。


紙切りで観客からアニメの登場人物が注文されれば、その主題歌を即興で演奏することもあり、寄席囃子の曲は数百曲に及ぶとされています。(国立公文書館)


国立劇場養成所の寄席囃子研修では、先生の演奏を聞き、自分で譜面を作りながら、寄席で使われる出囃子を学びます。(NTJ)


決められた曲を覚えるだけではなく、その日の出演者や芸に合わせ、舞台袖から高座を支える幅広い知識と対応力が必要です。


太鼓などの鳴り物は、基本的に前座が担当します。落語芸術協会も、出囃子や地囃子、踊りで使う太鼓などの鳴り物を前座の仕事として紹介しています。(落語芸術協会)


寄席の出囃子は、見えない舞台袖で、お囃子さんと前座が芸人の高座を支えることで生まれています。


「下座」とは、どこを指す言葉?

寄席囃子について調べると、「下座(げざ)」という言葉も出てきます。


下座は、舞台袖でお囃子を演奏する場所を指す言葉です。そこから、演奏をする人や、そこで奏でられる音楽を「下座」「下座音楽」と呼ぶこともあります。


天満天神繁昌亭では、客席から見て右側にあり、御簾越しに出演者の様子を見ながらお囃子を演奏する場所を「下座」として紹介しています。(繁昌亭)


文化庁の文化遺産データベースにも、「上方寄席下座音楽」という名称で、出囃子やハメモノを含む上方の寄席音楽が記録されています。(文化遺産オンライン)


下座は、出囃子とは別の種類の音楽ではありません。出囃子などの寄席囃子を演奏する場所や、そこで奏でられる音楽を表す言葉です。


初めて聞く場合は、「舞台袖でお囃子を演奏している場所」と考えれば十分でしょう。


「地囃子」は、曲芸や紙切りなどを支える音楽

出囃子が芸人の登場に合わせて演奏されるのに対し、地囃子は、曲芸、奇術、紙切りなどの芸を演じている最中に使われる伴奏です。(NTJ)


紙切りなら、お客さんから出された題に合わせて作品を切っていく時間を、音楽が支えます。曲芸や奇術でも、動きに音が加わることで、技の見せ場や客席の期待が高まります。


出囃子は登場するときの音楽であり、地囃子は芸を演じている時間を支える音楽です。


同じ寄席囃子でも、芸人が現れる瞬間をつくるのか、芸そのものに寄り添うのかで役割が違います。


「ハメモノ」は、落語本編の中に入る音の演出

ハメモノは、落語本編の中へ、三味線、太鼓、笛などの音を演出として入れることです。


日本芸術文化振興会は、上方落語には三味線や鳴り物が入る「ハメモノ入り」の噺が多く、旅の場面では演者の言葉を受けて演奏が始まり、道中の浮き立つ気分を表現すると紹介しています。遊廓や座敷の場面でも、お囃子によって上方らしい情景が生まれます。(国立公文書館)


文化庁の文化遺産データベースでは、芝居噺の始まりや終わり、登場人物の出入り、会話の間などに音楽を入れることをハメモノと説明しています。(文化遺産オンライン)


つまり、出囃子が「落語家本人が高座へ登場するときの音楽」なのに対し、ハメモノは「噺の世界の中へ入る音」です。


旅の場面なら、音によって道中の陽気な気分が生まれます。座敷の場面なら、三味線によって華やかな空間が立ち上がります。


ハメモノは、座布団の上だけでは見えない場所、時間、空気を、音によって客席の中へ立ち上げる演出です。


ハメモノは「鳴り物」とも呼ぶ?

落語の現場では、ハメモノが入る噺について、「鳴り物が入る噺」「鳴り物入り」などと表現することがあります。上方落語協会の公演案内でも、「鳴り物が入る落語」「鳴り物紹介」「ハメモノ紹介」という言葉が使われています。(上方落語協会)


そのため、会話の中でハメモノを指すように「鳴り物」と呼ぶ場面もあります。


ただし、厳密には、ハメモノと鳴り物は完全に同じ意味ではありません。


「鳴り物」は、太鼓、笛、鉦、鼓などの楽器や、その演奏を指す言葉です。


一方の「ハメモノ」は、三味線や鳴り物などの音を、落語本編の場面、人物の出入り、会話の間へ入れる演出を指します。


文化庁も、上方寄席下座音楽の楽器として笛や鐘などの鳴物を挙げ、それらが人物の出入りや対話の間に奏される演出をハメモノと説明しています。(文化遺産オンライン)


上方落語協会も、ハメモノを「落語の中に三味線や太鼓等が効果音として入る」ものと説明しています。(上方落語協会)


鳴り物は音を鳴らす楽器や演奏、ハメモノはその音を噺の中へ組み込む演出。現場では近い意味で使われることがありますが、厳密にはこの違いがあります。


ハメモノは上方落語だけのもの?

ハメモノは、上方落語の大きな特徴として紹介されることが多く、東京の落語と比べて、音を多く使う噺が数多くあります。(国立公文書館)


ただし、東京の落語では噺の途中に音が一切入らない、と断定することはできません。


日本芸術文化振興会は、東京の寄席でも、お囃子さんが幽霊の登場時など、落語の中に使われる音楽を担当すると紹介しています。(国立公文書館)


なので、東京と上方の違いは、「上方には音があり、東京には音がない」という単純なものではありません。


上方落語では、ハメモノが噺の世界をつくる演出として、より多くの演目に取り入れられてきた。 そのくらいに捉えるのが良いでしょう。


上方落語には「受け囃子」もある

天満天神繁昌亭の公式解説では、上方の寄席囃子として、出囃子やハメモノに加え、「受け囃子」も紹介されています。


受け囃子は、サゲの言葉を受けて演奏される囃子です。落語家が噺を終えたあと、その終わりを音が受け取り、次の流れへつないでいきます。(繁昌亭)


東京では、サゲのあとに落語家がお辞儀をして高座を下り、次の出囃子へ移る流れが一般的です。一方、上方ではサゲを受けて囃子が入ることで、一席の締まり方にも音楽が関わります。


大阪特有の太鼓である「しゃぎり」と同じように、落語家が話していない時間の音にも、東京と上方の寄席文化の違いが現れています。


東京の出囃子文化は、上方から広がった

天満天神繁昌亭の公式解説によると、上方落語では、よしず張りの掛け小屋で演じられていた時代から囃子が落語とともにあり、東京の寄席で寄席囃子が使われるようになったのは大正時代以降とされています。(繁昌亭)


現在では、東京の寄席でも出囃子は欠かせないものになっています。


東京の落語家が二ツ目になると自分の出囃子を持ち、曲を聞いただけで次の出演者に気づくという文化も、現在の寄席に定着しています。


しかし、その歴史をたどると、現在の形が最初から全国共通だったわけではありません。


東京と上方の寄席文化が影響し合いながら、現在の出囃子の形が育ってきました。


出囃子を覚える必要は、まったくない

初めて寄席へ行く前に、落語家の出囃子を調べたり、曲名を覚えたりする必要はまったくありません。


新しい曲が始まり、芸人が姿を現し、その人の高座が始まる。その流れをそのまま楽しめば十分です。


ただ、何度か同じ落語家を聞いていると、意識して暗記したわけではないのに、

「この曲、前にも聞いたな」

と感じることがあります。


やがて曲が始まっただけで、

「次はあの人だ」

と分かるようになるかもしれません。


出囃子は覚えるものではなく、同じ演者を何度も見ているうちに、勝手に覚えてしまうことがあるものです。


それは落語を楽しむための条件ではなく、寄席や落語会へ通う中で自然に増えていく楽しみのひとつです。


シブチカ落語鑑賞教室でも、高座へ上がる瞬間から見てみる

シブチカ落語鑑賞教室では、1回の公演で4つの落語口演を楽しめます。


初めて見るときは、落語家が座布団へ座り、話し始めてからが落語だと思うかもしれません。


ただ、出囃子に耳を傾けてみると、一席の始まり方が少し違って見えます。


曲が始まり、落語家が姿を現し、拍手の中を高座へ向かう。座布団へ座り、客席へお辞儀をして、最初の言葉を話す。


出囃子から登場、お辞儀までを含めて、その落語家の高座へ客席の空気が切り替わっていきます。


4つの高座を続けて見ると、曲の調子も、歩き方も、座布団へ座るまでの空気も、落語家によって違うことに気づくでしょう。


曲名を覚える必要はありません。まずは、どんな音とともに次の落語家が現れるのか、その瞬間を楽しんでみてください。


出囃子を知ると、寄席の舞台袖まで見えてくる

出囃子は、芸人が高座へ上がるときの音楽です。


寄席囃子は、出囃子や地囃子などを含む、寄席の音楽全体を表します。下座は、お囃子を演奏する舞台袖の場所や、そこで奏でられる音楽を指します。


地囃子は曲芸や紙切りなどの芸を支え、ハメモノは落語本編の中に三味線や鳴り物を入れ、人物、場所、時間、空気を音によって立ち上げます。


言葉だけを見ると複雑に感じますが、すべて覚える必要はありません。


出囃子が鳴れば、次の芸人が登場する。地囃子が聞こえれば、音楽が芸そのものを支えている。ハメモノや鳴り物が入れば、噺の世界の中に音が加わっている。


その違いを知っておくだけで、寄席で聞こえる音の意味が少しずつ見えてきます。


芸人の姿も、めくりの名前も見えないうちから、出囃子によって次の高座は始まっています。


次に寄席や落語会へ行くときは、目当ての演者が姿を現す直前、どんな音が聞こえているのかにも耳を傾けてみてください。

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参考資料

日本芸術文化振興会「寄席囃子とは」

日本芸術文化振興会「大衆芸能(寄席囃子)研修|研修内容」

日本芸術文化振興会「文化デジタルライブラリー|寄席へ入る:寄席囃子」

日本芸術文化振興会「文化デジタルライブラリー|上方落語の魅力とは」

文化庁「上方寄席下座音楽」

天満天神繁昌亭「下座」

公益社団法人 落語芸術協会「落語家の階級」

公益社団法人 上方落語協会「出張公演のご案内」

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​公演日

​開演​

​公演名​

​出演者

2026年9月19日土曜日

午後8:00

シブチカ落語鑑賞教室

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2026年10月18日日曜日

午前4:00

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