江戸時代の防犯対策は? 夜になると町の入口が閉まっていた!

公開日:2026年10月20日
文=シブチカ落語研究所
夜遅く家に帰ろうとしたら、町の入口に大きな門が閉まっている。
江戸時代には、そんな光景が当たり前に見られました。町の出入口には番人がいて、夜中に通り抜ける人がいれば、行き先を確かめてから通していたのです。
現代なら玄関の鍵や防犯カメラ、オートロックなどで家を守りますが、江戸時代には、町全体に鍵をかけるような防犯の仕組みがありました。
泥棒や不審者から家を守るために、当時の人々はどんな工夫をしていたのでしょうか。
江戸の町の防犯事情を、泥棒が登場する落語とともにのぞいてみましょう。
夜になると町の入口が閉まった! 江戸の「木戸」とは?
江戸の町には、通りの途中や町の境目に、「木戸(きど)」と呼ばれる木製の門が設けられていました。
昼間は門が開いているので、商人や職人、買い物客などが自由に行き来できます。しかし、夜になると木戸が閉められ、通行が制限されました。
この門を管理していたのが、「木戸番(きどばん)」と呼ばれる番人です。木戸のそばには小さな番小屋があり、番人はそこで暮らしながら、門の開け閉めや町の警戒を担当していました。
江戸では、夜四つ時、現在のおよそ午後10時頃に木戸を閉める決まりがありました。
それより遅く帰ってきた人は、木戸番に声をかけます。木戸には大きな門とは別に、人が通れる小さな「くぐり戸」が設けられており、夜間に通る必要がある人は、番人の確認を受けて通ることができました。
面白いのは、その先の仕組みです。
木戸番は、通行人を確認すると、拍子木を打って次の町の木戸番に知らせました。次の木戸でも通行人を確認し、さらに先へ知らせていきます。
これを「町送り」といいます。
夜道を歩く人の存在が、拍子木の音によって次の町へ、また次の町へと伝わっていくのです。
この仕組みには、泥棒が町へ入り込むのを防ぐだけでなく、盗みを働いた人間が逃げるのを難しくする役割もありました。
たとえば、町の中に住んでいる人が泥棒だったとしても、盗んだものを持って夜中によその町へ逃げようとすれば、木戸番のいる門を通らなければなりません。
さらに、江戸の町では、大家が長屋の住人の身元や暮らしを把握し、町ごとに住民の名前や職業などを記録した「人別帳(にんべつちょう)」も作られていました。
近所の人々も、井戸や路地を共有しながら暮らしていたため、普段からお互いの様子を知る機会が多くありました。
江戸は全国から人が集まる大都市でしたが、町の中では、誰がどこに住んでいるのかを把握する仕組みがあったのです。
住人のことを知る人々がいて、夜には門が閉まり、人の出入りを番人が見張る。
江戸の防犯は、こうした町ぐるみの仕組みによって支えられていたのです。
長屋にも門があった? 庶民の住まいと戸締まり
町の入口だけでなく、庶民が暮らす長屋にも防犯の工夫がありました。
江戸の長屋は、一つの建物をいくつもの部屋に分けた、今でいう集合住宅のようなものです。
表通りから細い路地へ入ると、左右に小さな家が並び、職人や商人などが暮らしていました。落語によく登場する「八っつぁん」「熊さん」たちの住まいも、こうした長屋です。
この路地の入口には、「長屋木戸」と呼ばれる門が設けられていました。
町の通りにある木戸が夜遅くに閉められるのに対し、長屋木戸は日暮れ頃に閉められていました。長屋の住人や大家が戸締まりを担当し、外から人が入りにくくしていたのです。
つまり、町の入口に門があり、さらに長屋の路地にも門があるという、二段構えの防犯対策でした。
個々の家では、戸につっかえ棒をして内側から開かないようにするなど、簡単な戸締まりも行われていました。
長屋は隣の家との壁も薄く、人々が狭い路地を共有して暮らす場所です。近所に誰が住んでいるかを知っていることも、不審な人に気づくきっかけになったでしょう。
現在のマンションのオートロックとは仕組みが違いますが、一軒ごとに守るだけでなく、建物の入口でも人の出入りを制限するという発想は、どこか似ています。
江戸時代にも鍵はあった! 蔵には意外な仕掛けも
江戸時代にも、鍵や錠前は存在していました。
特に、大切な品物や財産を保管する商家の蔵などでは、頑丈な錠前が使われていました。
当時の鍵は、現代の住宅で使うものとは形が大きく違います。鉄で作られた大きな鍵もあり、職人が工夫を凝らした複雑な仕組みのものも作られていました。
なかでも面白いのが、江戸時代の蔵に使われていた、今のオートロックにも似た仕組みです。
外側の扉を開けても、その奥にはさらに鍵のかかった引き戸があります。この引き戸の錠には、戸を閉めると内部の部品が自動的に下がり、鍵がかかる仕掛けがありました。
開けるには、専用の大きな鍵を差し込み、内部の部品を持ち上げる必要があります。
ALSOKが紹介する江戸時代の蔵の鍵は、長さだけでなく、先端の形や途中にある突起の形まで合わないと開かない仕組みだったそうです。
庶民の長屋では町や路地の入口を守る一方、財産を多く保管する蔵では、鍵そのものにも高度な工夫が凝らされていたのです。
夜の町を歩く「火の用心」も、防犯の役に立っていた
江戸の夜には、木戸を管理する人のほかにも、町の安全を見守る人々がいました。
町には「自身番(じしんばん)」と呼ばれる詰所が設けられ、町の役人や町屋敷の管理人などが、火事や犯罪への警戒にあたっていました。
夜の見回りでは、拍子木を打ちながら町を歩きます。
カン、カン、と木を打ち合わせる音が、暗い通りに響く。そんな夜の光景を想像してみてください。
拍子木の音は、町の人々に火の用心を呼びかけるとともに、誰かが町を見回っていることを知らせる役割も果たしていました。
実際、消防博物館には、江戸時代の番人が巡回に使った拍子木が収蔵されています。
そこには「火盗用慎」という文字が記されています。
これは、火事と盗難の両方に注意するという意味です。
木戸番や自身番は、現代の警察官や警備員と同じ制度ではありませんが、町の人々の暮らしを支える身近な存在でした。
江戸の防犯は、町の入口を閉め、人の出入りを確かめ、夜には見回りをするという、いくつもの仕組みによって成り立っていたのです。
泥棒が盗みに入ったのに、何も盗れない? 落語に登場する泥棒たち
そんな江戸の町にも、泥棒はやってきます。
落語には泥棒が登場する噺がいくつもありますが、なかには、泥棒のほうが困った目に遭うおかしな物語もあります。
たとえば、『出来心(できごころ)』。
ある駆け出しの泥棒が、親分から盗みの手ほどきを受けて、長屋へ忍び込みます。ところが、入った家はあまりに貧乏で、盗めそうなものが何もありません。
困っているところへ家の主人が帰ってきたため、泥棒は慌てて床下に隠れます。
すると主人は、家に泥棒が入ったのを逆手に取って、大家にとんでもない嘘をつき始めるのです。
もう一つ、泥棒が活躍する落語に『転宅(てんたく)』があります。
こちらは、お妾さんの家に忍び込んだ泥棒が、家の女性に見つかってしまう噺です。泥棒は相手を脅して金を奪おうとしますが、女性のほうが一枚も二枚も上手。いつの間にか、泥棒が相手の言葉に振り回されてしまいます。
どちらの噺も、泥棒の手口を詳しく知るというより、悪事を働こうとした人間が、思いがけない相手に翻弄される面白さを楽しむ落語です。
泥棒のような悪役でさえ、どこか間が抜けていて憎みきれない。そんな人物の描き方にも、落語らしさが表れています。
江戸の夜道を想像したら、落語の世界も面白くなる
夜になると町の入口が閉まり、番人が人の出入りを確かめる。長屋の路地にも門があり、拍子木の音が暗い道に響く。
江戸時代には、今とは違う防犯の仕組みが町の中にありました。
落語に登場する長屋や泥棒も、そんな暮らしの風景を思い浮かべながら聴くと、より身近に感じられます。
『出来心』では、泥棒が忍び込んだ長屋にどんな部屋があったのか、家の主人はどんな暮らしをしていたのか。落語家の言葉や仕草から、さまざまな風景が浮かび上がります。
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夜、家の鍵をかけるときには、江戸の町で木戸を閉めていた番人たちの姿を、少し思い浮かべてみてください。
今とは違う防犯の仕組みも、人間のずる賢さや間の抜けたところも、落語の世界には生き生きと残っています。
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参考資料
国立歴史民俗博物館「江戸における木戸・番屋の成立と機能―絵画史料を中心に」
江東区深川江戸資料館「資料館ノート 第114号|長屋で暮らす人びと」
港区「デジタル版 港区のあゆみ|町屋敷単位の人別帳」
港区「デジタル版 港区のあゆみ|家主・家守・大家」
SUUMOジャーナル「落語に多い泥棒噺 江戸のセキュリティは『人力オートロック』が守っていた」
江戸東京博物館「常設展|江戸の町と暮らし」
山川出版社・Historist「自身番」
文化遺産オンライン「錠」
ALSOK「鍵ものがたり Vol.4|江戸時代のオートロック 蔵の鍵」
消防博物館 収蔵品データベース「拍子木」
Web千字寄席「出来心」
BSテレ東「今どき落語|転宅」









